はじめに:なぜWeb小説には「専門用語」が多いのか?
「小説家になろう」をはじめとするWeb小説投稿サイト発の書籍が、書店の棚を大きく占めるようになりました。しかし、タイトルやあらすじを見ると「悪役令嬢」「ざまぁ」「死に戻り」「チート」といった、一般の読書ではあまり馴染みのない言葉が並んでいます。
これらは、膨大な数の作品の中から「読者が自分の読みたい展開を瞬時に探すためのタグ(目印)」として発達してきた言葉です。つまり、これらの言葉の意味を知ることは、「好みの物語に、最短で出会うための地図を手に入れること」と同じなのです。
この記事では、数多くのWeb小説を書籍化している電子書籍レーベルの視点で、よく見る定番用語から、知っているとより楽しめるニッチな用語までを徹底解説します。
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1:まずはここから! 基本の「ジャンル・設定」用語
物語の土台となる設定に関する用語です。ここを知っておくと、その小説が「どんな世界観」なのかが分かります。
異世界転生(いせかいてんせい)
現代日本で生活していた主人公が、事故や病気などで命を落とし、剣と魔法のファンタジー世界などで別の人間(あるいは魔物など)として生まれ変わること。
【ポイント】 前世の記憶や知識(現代知識)を持っているため、その知識を活かして異世界で活躍したり、文化レベルを上げたりする展開が人気です。「現代の料理」や「医療知識」で無双するのはこのパターンです。
異世界転移(いせかいてんい)
主人公が今の姿のまま、異世界へと召喚されたり飛ばされたりすること。
【ポイント】 「転生」と違い、赤ん坊からやり直すのではなく、ある日突然異世界に放り出されます。学校のクラスごと召喚される「クラス転移」なども定番です。元の世界に帰ることを目的とする場合と、異世界で永住を決意する場合に分かれます。
悪役令嬢(あくやくれいじょう)
本来は、乙女ゲームや物語の中で「ヒロインをいじめる役割」として登場する意地悪な令嬢キャラクターのこと。
Web小説では、「現代日本の女性が、ゲームの中の悪役令嬢に転生してしまった」という設定が主流です。
【ポイント】 自分が将来「破滅(処刑や追放)」することを知っているため、その未来を回避しようと努力します。その結果、本来のヒロインよりも周囲から愛されたり、王子様と結ばれたりする「逆転劇」が魅力です。
乙女ゲーム(おとめげーむ)
女性向け恋愛シミュレーションゲームのこと。Web小説では「転生先の世界」として設定されることが非常に多いです。
「ここは私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だわ!」と気づくところから物語が始まることが多いです。
【ポイント】 「攻略対象(イケメンたち)」、「隠しキャラ」、「イベント(舞踏会や学園祭)」といったゲーム的な概念が、そのまま小説のストーリー進行として使われます。
聖女(せいじょ)
強大な回復魔法や、国を守る結界を張る力を持つ、選ばれた女性のこと。
【ポイント】 従来は清く正しいヒロインでしたが、最近のトレンドでは「性格の悪い偽の聖女」が登場したり、「実は聖女の力を持っていたのは、追放された主人公の方だった」という展開が多く見られます。
チート(ちーと)
ゲーム用語の「不正行為(チート)」が語源。Web小説では「ルールを無視するほど圧倒的に強い能力」を指します。
努力して強くなるのではなく、最初から最強の力を持っているのが特徴です。
【ポイント】 読者は主人公が苦戦するストレスを感じず、敵を圧倒する爽快感(俺TUEEE)を楽しむことができます。「スキル」や「ステータス」という概念とセットで使われます。
第2章:ストーリー展開を示す用語
あらすじによく書かれている言葉です。「この物語を読むと、どんな気持ちになれるか」を示しています。
ざまぁ
ざまぁみろ、「因果応報」を指す言葉です。
主人公を虐げていた理不尽な人々(婚約破棄した王子、いじめてきた義理の家族、ブラックな職場の上司など)が、主人公の価値に気づかずに追放した後、没落したり不幸になったりする展開のこと。
【ポイント】 単なる復讐を示す場合もあれば、「主人公が幸せになることで、相対的に相手が後悔する」というニュアンスも含まれます。読者が感じる「スカッとする感覚(カタルシス)」を約束する重要なタグです。
婚約破棄(こんやくはき)
多くの場合物語の導入部(開始数ページ)で発生する、最大のトラブルイベント。
多くの場合は、王子や高位貴族から、公衆の面前(卒業パーティなど)で一方的に婚約破棄を言い渡されます。
【ポイント】 これ自体は悲劇ですが、Web小説においては「ここから主人公のサクセスストーリー(新しい恋、自由な生活)が始まる」という合図です。ここから「ざまぁ」や「溺愛」へと繋がっていきます。
死に戻り(しにもどり)
死亡した瞬間に、過去の特定の時点(セーブポイントのような時間)まで記憶を持ったまま戻ること。タイムリープ。
【ポイント】 「殺される未来」や「悲劇的な結末」を回避するために、何度も時間をやり直して正解のルートを探すミステリー・サスペンス要素があります。主人公だけが未来を知っている孤独感や、運命を変えた時の達成感が魅力です。
溺愛(できあい)
ヒーロー(相手役)が、主人公のことをとにかく愛し、甘やかし、大切にする展開のこと。
【ポイント】 駆け引きや悲しいすれ違いによるストレスがなく、安心して読める恋愛小説を求めている読者に人気のタグです。「冷酷公爵」などが、主人公にだけ甘々になるギャップなどもここに含まれます。
スローライフ(すろーらいふ)
魔王を倒したり世界を救ったりする使命から離れ、田舎や辺境で農業をしたり、カフェを開いたりしてのんびり暮らすこと。
【ポイント】 実際には、主人公が優秀すぎるためにトラブルが向こうからやってきて、無自覚に解決してしまう……という「全然スローライフできていない」展開も含めてのお約束です。
第3章:キャラクター・属性に関する用語
登場人物の性格や特徴を表す言葉です。
ヤンデレ(やんでれ)
「病んでいる」と「デレ」の合成語。相手を愛するあまり、執着心が強すぎて常軌を逸した行動に出るキャラクター。
【ポイント】 Web小説、特に女性向け作品におけるヤンデレは、監禁などの怖い要素よりも「私のことしか見ていない究極の一途さ」としてポジティブに解釈されることが多いです。
ワンコ系(わんこけい)
犬のように人懐っこく、主人公に対して従順で、感情表現がストレートなキャラクター。
大型犬のように体が大きい騎士などが、主人公の前でだけ尻尾を振る(ように見える)可愛さが人気です。
モフモフ(もふもふ)
毛並みの良い動物や魔獣のこと。またはそれらと触れ合って癒やされること。
【ポイント】 聖獣(フェンリルなど)が、主人公にだけ懐いてペット状態になる展開がお約束です。「癒やし」要素として非常に重要視されます。
ハイスペ(はいすぺ)
ハイスペックの略。容姿端麗、高身長、高収入、高家柄、高い戦闘能力など、すべてを兼ね備えていること。
Web小説のヒーロー役は、基本的にこのハイスペ設定であることが多いです。
脳筋(のうきん)
「脳みそまで筋肉」の略。複雑なことを考えず、物理的な力ですべてを解決しようとするキャラクター。またはその思考。
コメディ要素として扱われることが多く、魔法主体の世界であえて物理攻撃で無双する爽快感があります。
第4章:システム・世界観の用語
ゲーム的な設定が小説に持ち込まれている場合に使われる用語です。
ステータス / 鑑定(すてーたす / かんてい)
RPGゲームのように、自分や相手の能力(強さ、魔力、スキル)を数値や文字として視認できる能力。
【ポイント】 「鑑定」スキルを使うことで、一見ボロボロの剣が実は伝説の聖剣だと見抜いたり、敵の弱点を見抜いたりします。主人公の賢さやアドバンテージを表現するのに便利な設定です。
アイテムボックス / 収納魔法
異次元の空間に荷物を出し入れできる魔法やスキルのこと。
【ポイント】 容量無限、中に入れた料理が腐らない(時間停止)、巨大な魔物も一瞬で収納できる、などのチート性能が付随します。これにより、旅の荷物に困るという描写をカットし、ストーリーをテンポよく進めることができます。
ギルド / 冒険者(ぎるど / ぼうけんしゃ)
魔物を倒したり、素材を採取したりして生計を立てる「冒険者」たちが所属する組織。
【ポイント】 ランク制度(Sランク~Fランクなど)があり、主人公が実力を見せて猛スピードでランクアップしていくのが定番の「成り上がり」パターンです。受付嬢とのやり取りも様式美の一つ。
学園(がくえん)
魔法や剣術を教える学校。10代のキャラクターが登場する作品では、物語の舞台がここになることが多いです。
【ポイント】 貴族の身分差、派閥争い、舞踏会、そして「卒業パーティでの婚約破棄」など、イベントの宝庫です。
第5章:ちょっとディープな「構文・スラング」用語集
ここでは、Web小説特有の「お約束」や、レビューなどで見かけるメタな用語を解説します。
フラグ(ふらぐ)
物語の展開を予測させる「前兆」のこと。
死亡フラグ:「この戦いが終わったら結婚するんだ」→戦死する前兆。
恋愛フラグ: 偶然ぶつかったり、助けたりして恋に落ちるきっかけ。
フラグを折る(回避する): 悪役令嬢ものなどで、破滅する運命(フラグ)を回避しようと行動すること。
RTA(あーるてぃーえー)
ゲーム用語の「Real Time Attack(最短時間でのクリア)」から。
Web小説では、主人公が迷いや苦戦を一切せず、最短ルートで目的を達成していくスピーディーな展開を指します。
例:「婚約破棄RTA」=物語開始早々に速攻で婚約破棄され、即座に幸せになる展開。
逆ハーレム(ぎゃくはーれむ)
略して「逆ハー」とも。一人の女性に対して、複数の男性キャラクターが好意を寄せ、取り囲んでいる状態。
乙女ゲームで複数のヒーローを同時攻略してエンディングを迎えることを「逆ハーエンド」と言ったりもします。
断罪イベント(だんざいいべんと)
悪役令嬢ものにおける一大イベント。
大勢の前で「貴様がヒロインをいじめたことは分かっている!」などと罪を暴かれ、糾弾されるシーン。
【ポイント】 主人公が悪役令嬢に転生している場合、このイベントをどう切り抜けるか、あるいは逆に相手の嘘を暴いて返り討ちにするか(ざまぁ)が最大の見せ場になります。
内政(ないせい)
戦闘ではなく、領地の経営や国の政治改革を行うこと。
【ポイント】 前世の知識(現代知識)を使って、衛生環境を改善したり、新しい特産品を作って財政を立て直したりします。「戦うだけがファンタジーじゃない」という層に人気のジャンルです。
第6章:恋愛・女性向け作品の「特殊設定」用語
特に女性読者に人気の高い、恋愛要素の強い作品で使われる用語です。
政略結婚(せいりゃくけっこん)
家と家の結びつき、あるいは国の平和のために決められた結婚。
【ポイント】「愛のない不幸な結婚」の象徴のようですが、そこから大きく分けて「愛のある関係」へと育てていく過程が描かれるか、あるいは「政略結婚の相手と離婚して、真実の愛(溺愛してくれる人)を見つける」かの2パターンに分かれます。
契約結婚(けいやくけっこん)
恋愛感情なしで、お互いの利害(借金返済、身分隠し、世間体など)のために結婚すること。
【ポイント】 「愛はない」と言って始まった生活の中で、徐々に相手の優しさに触れ、最終的には本当の夫婦になる(溺愛される)という過程を楽しむジャンルです。
白い結婚(しろいけっこん)
「夫婦として籍は入れているが、肉体関係が一切ない状態」のこと。
【ポイント】理由は「夫が不能(という噂)」「夫に忘れられない恋人がいる」「呪いがかかっている」「ヒロインが幼すぎる」など様々。
一例ですが、「白い結婚だと思っていたら、実は夫はヒロインを激愛していて、大切にするあまり手を出せなかっただけ(または我慢していただけ)」という、すれ違いからの溺愛解放カタルシスを楽しむための舞台装置です。
身代わり婚(みがわりこん)
本来結婚するはずだった姉や妹の代わりに、虐げられていた主人公が「厄介払い」として嫁がされること。
【ポイント】 嫁ぎ先は「冷酷」「魔物公爵」など悪い噂がある場所ですが、行ってみると実は素晴らしい人格者で……という「シンデレラストーリー」の変形版です。
聖獣・使い魔(せいじゅう・つかいま)
主人公の相棒となる生き物。
ただのペットではなく、高い知能を持ち、人間の言葉を話すこともあります。
ヒーローとの恋愛が進まない時の相談相手になったり、ピンチを救ってくれたりと、マスコットキャラクター以上の活躍をします。
真実の愛(しんじつのあい)
本来は良い言葉ですが、Web小説(特に婚約破棄もの)においては「浮気した王子などが、浮気相手との関係を正当化するために使う、頭の悪い言い訳」として使われます。
【ポイント】「彼女こそが僕の『真実の愛』の相手だ! 貴様のような可愛げのない女とは婚約破棄する!」というセリフは、その後の破滅の合図です。
義妹・異母妹(ぎまい・いぼまい)
主人公をいじめる天敵としての役割が多いポジション。
【ポイント】「可愛らしい妹」と「地味な姉(主人公)」という対比で描かれますが、実は姉の方が魔力が強かったり、血筋が良かったりします。妹が姉の婚約者を奪うところから物語が始まるのがお約束です。
辺境伯(へんきょうはく)
王都から離れた国境付近を治める貴族。
【ポイント】「野蛮」などと噂されることも多いですが、実際は「質実剛健」「女性慣れしていない純情男」などという優良物件であるケース。
スパダリ
「スーパーダーリン」の略。
【ポイント】容姿、収入、家柄が良いだけでなく、家事ができたり、精神的に成熟していたり、包容力があったりと、「恋人・夫として欠点がない完璧な男性」のこと。
クーデレ
普段は「クール(冷静・冷淡)」だが、時折「デレ(甘え)」るキャラクター。
【ポイント】「冷酷」「冷血」と呼ばれるヒーローが、ヒロインにだけふと見せる笑顔や優しさに、読者はときめきます。ギャップ萌えの王道です。
執着(しゅうちゃく)
一見ネガティブですが、物語においては「ヒロインを誰にも渡したくないあまり、過保護になったり嫉妬したりすること」を指す褒め言葉。
【ポイント】「逃げられないように一時的に監禁(豪華な部屋で)」などの強引な展開も、愛の深さとして好まれます。
第7章:知っておくと通(ツウ)な「世界観設定」の小ネタ
多くの作品で共通して使われる、Web小説独特の「暗黙の了解」となっている設定です。
魔力酔い(まりょくよい)
他人の魔力にあてられたり、魔力を使いすぎたりして体調を崩すこと。
【ポイント】 ヒロインが倒れ、ヒーローが介抱する(お姫様抱っこなど)ためのきっかけとして機能する便利な設定です。
前世の死因(ぜんせのしいん)
主人公が転生する原因。
「トラックにはねられる」が有名ですが、「過労死(ブラック企業での連勤明け)」も非常に増えています。これは、転生後のスローライフへの渇望に説得力を持たせるためです。
騎士団長(きしだんちょう)
人気のあるヒーローの職業。
「王子」は政治や立場に縛られますが、「騎士団長」は実力主義で硬派、そして体が頑丈で頼りになるというイメージがあります。
まとめ:用語を知れば、読みたい本がすぐ見つかる
Web小説や電子書籍のストアには、膨大な数の作品が並んでいます。
しかし、今回解説した「ざまぁ」「溺愛」「悪役令嬢」「死に戻り」といったキーワード(タグ)の意味を知っていれば、タイトルやあらすじを見ただけで、
「あ、これは最後にスカッとする話だ」
「これはドロドロしてなくて、安心して読める恋愛ものだ」
「これはゲーム的な戦略を楽しむ話だ」
と、直感的に判別できるようになります。
用語の意味がわかったら、ぜひ一度気になるキーワードで作品を探してみてください!























